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「踊る」ダンスに「観る」ダンス。ダンスを求めて世界を徘徊。


by enterachilles
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世界バレエフェスティバル Bプロ 【8月9日(日)】

ざっくりとまとまめると、Aプロより面白かったしアダルト(…)な作品が多かった。相変わらず、この組は必要ですか?と首をかしげる箇所もありましたが。後日加筆するかもしれませんが、以下短評。

【第1部】

「チャイコフスキー・パ・ド・ドゥ」 マリアネラ・ヌニェス/ティアゴ・ソアレス

この二人、特にヌニェスのキラキラとした存在と今が華!という踊りの楽しさに満ち溢れた風情が文句なしに麗しい。ソアレスとのペアでは片手サポートのピルエットがどの作品でもデフォルトなんですね…チャイパドでやっていいのかどうかは知りませんが。

「コッペリア」 ヤーナ・サレンコ/ズデネク・コンヴァリーナ

きっちりと踊っていて「正しい」コッペリアだったし、サレンコも気合を入れてバランスをとっていたりしたんですが…いかんせん埋もれてしまうペアです。Aプロのコジョカル&コボー組と比べられてしまうという不運も。

「アレクサンダー大王」 ポリーナ・セミオノワ/フリーデマン・フォーゲル

Aプロの、個々の踊りとしてはいいだけど2人で踊る作品としては何ともあっさり風味のマノンと比べて数倍良い演目チョイスだった。ポリーナは外見はそう中性的なわけでもないんだけれど、踊りだすととっても男前というか、「青年」のイメージ。なぜだ!どうりでマノンがいまいちだったわけだ…。アレクサンダー大王=金髪のイメージなので、フォーゲルは外見的にイメージどんぴしゃ。しかし、先にこのPDDだけ出来ていて、今後全幕が発表予定ってあり~?セミオノワとフォーゲルの身体を美しく見せるPDDとしては成功していると思うけれど。

「海賊」より "寝室のパ・ド・ドゥ" シオマラ・レイエス/ホセ・カレーニョ

アダージオのみで、カレーニョはサポートに徹する役回りのみというフェスらしくない演目チョイス。パートナーを美しく見せることに滅私奉公している風でいて、カレーニョのリフトテクニックに感心させられる。

「白鳥の湖」より "黒鳥のパ・ド・ドゥ"  上野水香/デヴィッド・マッカテリ

オディールとしても、ジークフリートとしても、PDDとしても、まったく受け入れ難く…ガラ本編はこの二人のDonQで締めですか…と頭をかかえたくなる。上野さんのオディール、粘りが一切なくて、マッカテリの王子、「はい次は右手をおろして~はい、次は手を差し出して~」と振り付けをなぞってる感しか伝わってこなくって…。

「パリの炎」 マリア・コチェトコワ/ダニール・シムキン

シムキンの横開脚ジャンプや勢いが落ちて止まりそうなところでまた勢いを増す回転に観客が狂喜している間にコチェトワも凄いことをしておりました。フェッテの見せ場でS→D→軸足ジャンプ(!)→Sの前半に、後半は90°方向転換フェッテ。同じテクニック巧者ペアとしてマリインスキー&ボリショイ合同ガラでオシポワ&ワシーリエフ組が踊った同じPDDと比較すると、ワシーリエフが力で押していたのに比べてシムキンの力みのないテクニックにより唖然とします。

【第2部】

「ナイト・アンド・エコー」 エレーヌ・ブシェ/ティアゴ・ボァディン

ブシェの脚の長さを強調する衣装とボアディンのノイマイヤーダンサーらしい晴れやかな上半身の動き。ノイマイヤーのシンフォニック系作品を踊る男性ダンサーを見ると、「ヴェニスに死す」をイメージする。アポロン的な美を愛でる崇拝者の気持ちになるってこと?

「スリンガーランド・パ・ド・ドゥ」 アニエス・ルテステュ/ジョゼ・マルティネス

「精緻な不安定のスリル」でも使われている変則チュチュを着たルテステュとスキンカラーの衣装のマルティネスの二人が踊るフォーサイスは文句なくかっこいい…かと思いきや…。この二人、チャレンジングな自己プロデュースはさすがと思う一方で、今回のフェスでは演目チョイスに失敗している。

「白鳥の湖」第3幕より ルシンダ・ダン/レイチェル・ローリンズ/ロバート・カラン

ルースカヤの音楽にのせたダン=公爵夫人(でしたっけ?侯爵夫人?伯爵夫人?男爵夫人?)の迫力に圧倒されます。そう難しいパを盛り込んでいるわけではないのですが、構成の妙です。チャイパドの音楽のオデット(あの役名はなんでしたっけ?)と王子のPDDもバタバタしてなくてよかった。Aプロとは段違いに良い。

「マノン」より第1幕のパ・ド・ドゥ アリーナ・コジョカル/ヨハン・コボー

すみません、この二人のマノンは健康的すぎて1幕の出会いのPDDでさえもピンときません。なんかそのままHappy Endになだれ込んでしまいそうな…。崩れ落ちる風情とかまったくなし。

「アパルトマン」より "ドア・パ・ド・ドゥ" シルヴィ・ギエム/ニコラ・ル・リッシュ

ルリッシュが伸び伸びと踊っているのを見るのが久し振りでなんだか見ていて嬉しくなってしまいました。

「ベラ・フィギュラ」 オレリー・デュポン/マニュエル・ルグリ

デュポンの踊りにもう少し軽さと勢いが欲しい。特に冒頭。ルグリのキリアンには文句がつけられません。

【第3部】

「海賊」 ナターリヤ・オシポワ/レオニード・サラファーノフ

ソーモワのこれ見よがしな踊り方は好きになれないのですが、オシポワのアピールっぷりはワタクシ好み。同じボリショイのアレクサンドロワ姐さんに通じるような男前っぷりがある。男前な踊りっぷりに加えて男勝りなグランジュテ。彼女のメドーラのヴァリエーションは、もはや男性ヴァリエーション。彼女の踊りの鮮やかさは、余裕のSDDのフェッテではなく、あの滞空時間の長く力強いジャンプのダイナミズムにあると思う。サラファーノフは、アリというキャラではないけれどあの髪飾りがあるせいでもんちっちっぷりは多少カモフラージュ。彼とソーモワのPDDを見たときはさすがに二人の「どーだ!」っぷりにひきひきでしたが、今回のフェスでは折り目正しく嫌みなくテクニックを見せるスタイルを身につけたのかな~と。

「ル・パルク」 ディアナ・ヴィシニョーワ/ウラジーミル・マラーホフ

今日イチ(良いにしろ悪いにしろ、とにかくインパクトNo.1)の気迫あふれるヴィシニョーワの18禁「ル・パルク」。濃厚すぎます…パリオペの「ル・パルク」と本当に同じ作品ですか?という踊りになっているのは、ヴィシニョーワの濃厚エロス+マラーホフの耽美路線の融合の賜物。ヴィシニョーワとマラーホフが組み始めた頃はこの二人の「美」路線はバレエ、特にPDDというセッティングでワークするのかしら?と思ったこともありますが、この二人にしか出せない独特の色気あるステージが最近は定着してきた感があります。あ、ヴシニョーワが太ももの付け根外側にタトゥーを入れているのにちょっとびっくり。

「ブレルとバルバラ」 エリザベット・ロス/ジル・ロマン

ロスの「母」的な強さのある踊りとジルの「小悪魔」的な表情と仕草は、期待にたがわずベジャールとうい安心感。ジルの踊りのキレが多少…お疲れかしら。

「エスメラルダ」 タマラ・ロホ/フェデリコ・ボネッリ

ロホのエスメラルダ再び!ボネッリ…すみません、あまり視界に入っておりません。ロホは、賢いダンサーなんだと思う。お祭りはお祭りとして自分のテクニックを最大限観客にアピールする「余裕」がある。アダージオのバランスとヴァリエーションのコケティッシュな肩と腰の使い方、コーダのスーパーフェッテ(前半はSS+多回転、後半はSSDで90°方向転換)と、観客は大盛り上がり。

「オネーギン」より第3幕のパ・ド・ドゥ マリア・アイシュヴァルト/フィリップ・バランキエヴィッチ

アイシュヴァルトはプティパよりクランコ作品!バランキーはオールマイティーなダンサーですが、アイシュヴァルトはクランコダンサーなんですね。パリオペダンサーが踊るクランコは「ルグリのオネーギン」であり「ルディエールのタチアナ」であり、「ルグリとルディエール」が踊る「オネーギンとタチアナ」になる感がありますが、シュツッツガルトのダンサーが踊ると「クランコ振り付けのオネーギンとタチアナ」になる。アイシュヴァルトのタチアナは最後まで揺れるタチアナでありました。

「ドン・キホーテ」 スヴェトラーナ・ザハロワ/アンドレイ・ウヴァーロフ

あたしが女王(椎名林檎にあらず)ザハロワ様降臨でした。Aプロ初日の不調っぷりなど忘れたかのように。ウヴァーロフも通常並にやっと調子が上がってきた模様。アダージョの片手リフトも安心して見られました。ただ、開脚ジャンプ系は平常時のキレがありましたが、回転系のパはプレパレーションが浅くて弱弱しかった…。対してザハロワ様は「あたしが主役」的オーラばりばりで、バレエフェスではフェッテのトリプルくらいは当たり前に思われてしまうところ、前半SSD→後半Sという「ふつー」のグランフェッテでアピールしていました。確かにあの身長とあの脚の長さのダンサーのダブルと小柄なダンサーのダブルの難易度は違いますし、あの長い脚の繰り出すフェッテの迫力は違う次元にあるのだろう、とも。最近はザハロワとのペアで踊ることがほとんどのウヴァーロフですが、アナニアシヴィリと踊るときのほうが楽しそうに踊っているような気がする…蛇足ですが。
by enterachilles | 2009-08-09 22:42 | dance review