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「踊る」ダンスに「観る」ダンス。ダンスを求めて世界を徘徊。


by enterachilles
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Kバレエカンパニー 『ドン・キホーテ』

久しぶりに熊川氏の踊りを見てみたいな…と思って取ったチケットでしたが、K氏怪我降板のニュースにがっくり、でもその結果キトリに都さんがキャスティングされ…と最終的にはテンション↑でKバレエの公演へ。ここだけの話(?)、チケット取りも面倒かつ来日公演でもないのにあの値段!?と毎回尻込みして、Kバレエは見たことがなかったのです…。彼が自分のカンパニーを立ち上げたときは、K氏に対するパブリシティの異常な盛り上がりに引き気味で、カンパニーが成功するか半信半疑でしたが、ダンマガなどで読むパフォーマンス及びプロダクションの評価も概ね高く(ま、ホメホメ系という要素は差し引いて考えたとしても)、一度は自分の目で見たいな…と思っていたわけでして。こんなに長々と言い訳がましいことを書き連ねなきゃならない程、一時期のK氏アイドル扱いは酷かったのだな~と思い出してみたり。もしかして、最後にK氏を見たのは都さんと踊った新国開場記念公演『眠り』以来かも…?そういえばMADE IN LONDONとかもありましたっけ?

さてさて、本日のキャストは都さんとキャシディの主役組に、ダウエル氏のガマーシュにヘイドン氏のキホーテ。元ロイヤル組キャストというところでしょうか。ロイヤルのキトリといえば、3幕の白い長袖レースのチュチュが印象的。いつかのロイヤル来日公演のプログラム(?)にあった都さんの艶姿が思い出されます。…とまあ、思い出話はこのくらいにして。

ちらちらと、熊川版『ドンQ』はバリシニコフ版っぽいとか噂は聞いていたのですが、オリジナリティが随所に見られて面白かった。バリシニコフ版との比較は置いておいて(映像を見直さなきゃならないので)、全体的な印象として、ダンスをメインに持ってきているもののちゃんとキャラクターを活かすという『ドンQ』の作品としての味も忘れていない。カンパニー自体の勢いも感じました。カンパニー自体が場数を踏んでいるからか、舞台の一体感もあり。

『ドンQ』の懸案である場の構成ですが、1幕:バルセロナの広場、2幕:ジプシーの野営地→森→ジプシーの野営地、3幕:居酒屋→結婚式、といった具合。あ、相変わらずプログラムを買っていないので、一般的な場の呼び方で記載してあります。特徴的なのは、女ジプシーの踊りや人形芝居が省かれている点と、ドルシネア役が独立していること。プロローグ&1幕は、プロローグに貴婦人風の(ライモンダ?)ドルシネアが登場すること以外は「普通だな~」と思って観ていたのですが、2幕の構成が練られていてて、「オヤ?」と。

まず1幕。舞台美術もKバレエは評価が高いと聞いていましたが、シックな装置は好みでした。さし色的にショッキングピンクを闘牛士の衣装に入れる色彩感覚もナイス。この色彩感覚と振付の現代性(適度にスタイリッシュで、過度にエキゾチズムを表現しない)が熊川版『ドンQ』が受ける要因の一つなのでしょう。『ドンQ』といえばこの音楽にはこの振付!という部分は変えていないor残してあるけれど、舞台のスピード感をスローダウンさせてしまうような部分には手を入れてある。どんな層にも反感を買わないような改訂の手法がにくい。闘牛士たちは、踊りを合わせよう、という気は毛頭ないようですが音楽の盛り上がりに負けないスピード感のある踊りになっていました。随所に街の人々が手拍子を入れるのも、この作品ならアリかと思わせる。メルセデスの樋口さんは艶やかで○。エスパーダの宮尾さんは、メイクの鼻立ての入れ具合のせいか、K氏っぽく見えました。見得の切り方もK氏風。

2幕。キトリは衣装を変えて野営地に登場。キトリとバジルのPDDがあるのはヌレエフ版っぽい?ジプシーたちとキトリ&バジルのやり取りの場面も細かい改訂がされている部分です。ここでも男性群舞=ジプシーたちの踊りは勢いがある。馬車(?)を上手く使ってキトリは早変わり(衣装)。風車のシーンは、傷ついたキホーテをジプシーたちもサンチョ・パンサと一緒に介抱するところが案外ツボでした。ほとんどの版では、ジプシーたちはそそくさとその場を離れてしまうんですが、それが何回見ても単に装置転換の都合にしか思えなくて…。野営地→森の転換が自然に構成されていました。

森の場は、熊川版『ドンQ』の中で、最も秀逸な場面。斜めのラインを多用して、キホーテが夢の中でドライアドたちに翻弄される様を描いています。斜めのラインを多用する、というのは『ジゼル』2幕のようなですが、あのシーンも迷い込んだ男を翻弄するウィリーですね~。ドライアドたちは、雪の精@くるみのようにも見えたり(多分衣装のせい)。たまに、森の場でキホーテが片隅にボーっと立っている演出などもありますが、このプロダクションでのキホーテは、ドライアドたちの間を右往左往し、入れかわり立ちかわり現れるドルシネアやキトリを見つけてはキューピッドに邪魔され、としっかりストーリーに存在することが視覚的に表現されているのです。些細なことのように思えるこうした細部の演出が、積み重なっていくとドラマトゥルギーの一貫性の有無に関わってくるわけで。色彩感覚、という点でも「森の場=パステルカラー」という伝統は踏襲していません。っていうか、何で従来の『ドンQ』の森の場の衣装は揃いも揃ってパステル???キューピッド(群舞はなし)もこの版ではウィッグも衣装もゴールド系、ドライアドはゴールドで、キトリは白、と変な幼稚性の表出は排除されています。ちなみにドライアドとキトリはザ・クラシック・チュチュではなく、クラシック・チュチュとロマンチック・チュチュの中間のような丈の衣装。短身の日本人にはあの丈が案外似合う(余談ですが、チュールの幅の広いクラシック・チュチュは長身or頭の小さいロシア系ダンサー向けだと思う)。

キューピッドの矢に打たれたキホーテが再び野営地の場に戻ると、彼は正気に戻る(って解釈でいいんですよね…?)。ドルシネア=キトリという幻想から覚めたキホーテは、キトリとバジルのカップルを認め、ガマーシュたちからかばうように。この過程も、今回はすんなり納得できる構成だったと思います。バジルの狂言自殺のシーンで急にキトリ&バジルの側につくバージョンでのキホーテの身の振り方もどこか唐突だと感じていたので…。キホーテ役のヘイドン氏の演じ方が良かったのも多分にあるのでしょう。馬車で去ったキトリとバジルを巡るガマーシュ&ロレンツォ&サンチョ・パンサ&キホーテのやり取りがコミカルで見ごたえありました~。

3幕。居酒屋シーンでもがっつりエスパーダ&闘牛士たちのダンスシーンを入れるところは、さすが「踊る芸術監督」のプロダクションです。キホーテとガマーシュの決闘シーン(さすがのダウエル氏)が中盤で挿入されていたりして、「あれ?バジルの狂言自殺は?」と思いきや、そこははずしません。キトリとバジルは結婚式の場の準備のために先に退場し、キホーテとガマーシュは仲良く酒を酌み交わす仲になったとさ、という展開でしたね。う~ん、キャラクターが活きている。ダウエル氏のキャストを知ったときには、「なぜガマーシュを???」と疑問符がとんでいたのですが、見て納得のキャストでした。

結婚式の場は、長袖レースではなかったけれど、都さんは白いチュチュ。場の転換はさすがに4人のキャラクター(キホーテたち)が幕前での道行で場を持たせていた感はありますが、その道行きの演技も観客にはウケていました。で、結婚式のダンスの構成ですが、キトリとバジルのGPDDは勿論、ガマーシュの振付にもマネージュが入っていたり、1幕でのサンチョ・パンサ弄られシーンがここに挿入されたり(サンチョ・パンサもがっつり踊る)と、ディヴェルティスマン的華やかさ(騒々しさ?)。バジルが義父の髭を剃ったりと街が日常に戻る中、キホーテとサンチョ・パンサは新たな旅に出てる…というラストも、その先の物語をにおわせる秀逸な終わらせ方でした。

テンポ良くステージは進むけれど、4人のキャラクターのサブ・ストーリーが排除されている感は全くなく、よく練られた作品でした。主役の二人は踊りっぱなしですし、ダンス満載の演出ゆえ、踊るほうには大変な演目でしょうけれど…。

で、都さんのキトリなんですが、extraordinaryなところはどこにもないのに、なんであんなに印象に残るのか…とまたもや思わせる特異な存在感。1幕のガマーシュとの掛け合いも、攻撃的でなく控えめな感じだけれど街娘っぽさもあるし、キュート。全てのパが正確で揺るぎなく、軽やかであり且つ典雅。小気味良くステップを踏んでいると同時に、踊りが音楽に寄り添っている感じ。「この振りをこのテンポで!?」という(ヌレエフ的な意味ではなく)速さでも、踊りに余裕がある。一点の曇りもない、というのは彼女の踊りのことを言うんだろうな…。都さんのグラン・フェッテのイメージってあまりなかったのですが、32回転も前半SSDで後半Sを、ニーナ並みの速さの音楽で回っていました。乱れも見せず。いやはや…。

キャシディは、昔見たときはもっさりしたダンサー(失礼!)だな~と思っていましたが、サポートに乱れがなく、演技も軽妙で主役の余裕があったように感じました。1幕の片手リフトは2回とも微動だにしませんでしたし、都さんも踊りやすそうで。

というわけで、公演自体には満足だったんですが(そうそう、カーテンコールが収まらないので、K氏も出てきてました。普通に歩いてるように見えましたが)、ちょっと周囲にマナー知らずの観客が座ってまして、それが若干…。今回は上階で観てたのですが(新国)、思いっきり前のめってみたり、落ち着きなく左右に首を伸ばしてみたり、手を上げたり…という二人組が前の席にいて。ちゃんとアナウンスは入っていたと思うんですが、聞こえなかったようです。多少空席があって、2幕からは私の前からいなくなってくれてほっとしたんですが、移動した席の後ろの観客がクレームを入れたのか、係員がそれとなくその一帯に対して直接言いに来たのですが、意に介さなかったみたい。劇場で写メを撮っている時点で嫌な予感はしたんですが。5分と大人しくしてられないんだったら家に帰ってTVでバラエティでも見てなさい!と言いたくなりました…。そのカップルのみならず、少なくとも周囲でマナー×な観客がKバレエ以外の公演に比べて高頻度にいた、という事実だけで「だからKバレエの観客は…」とは言いたくないんですが(そうした劇場初心者に足を運ばせるだけの影響力はあるわけですから)、劇場/興行側も多少は手を打つ余地があるんじゃないかと思うんですよね~。1階席が取れていれば(ってK氏や都さんの日じゃ取れないって…)多少はリスクが回避できるんですけれど。
by enterachilles | 2007-07-18 00:09 | dance review